忘れな星風since 2007.12

虹奈夕希とmuvがコラボするサークルです。
活動は、文章虹奈夕希、
イラストmuvによる
FFVの小説をメインとしています。
ちなみにサークル名はインスピレーションでつけました。
決め手は「れな」!

◆作品
  FINAL FANTASY X Fan Novel
   ☆Soul of Crystal1(お試し読み)
   ☆Soul of Crystal2(お試し読み)
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◆メンバーのサイト
  虹奈夕希:BLUE RAINBOW
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Soul of Crystal 2 (お試し読み)

 翌朝。カルナック城の城門前。バッツ達は予定より早く集合することになった。というのは、夜も明けきらぬうちに火力船から通達が入り、増幅装置の作動が異常になりしかも火力船にモンスターが現れ始めたというのだ。城門前にはバッツ達四人とシド博士、そして当初同行を予定していなかったカルナック兵達が隊列を組んでいた。その中にはあのヴァーリングの姿もあった。
 カルナック兵達が隊列を組み終わり作戦伝令が済むと、ヴァーリングは四人に近寄ってきて片膝をついて頭を下げた。
「私は隕石調査隊隊長のヴァーリングと申します。タイクーン王女とその従者とは知らず先日行いました非礼を詫びに参りました。私の行いました行為は許されるべきものではないかもしれませんが、タイクーン王女の名の下に、私に寛大なる処分をお下し下さい」
 ヴァーリングは凛とした声で言った。
「頭を上げて下さい、ヴァーリング殿。先日の行いはあなたがその職務をしっかり全うするために起きた出来事。今回のことを深く反省し、これからもカルナックとタイクーンの国益のために尽力するのであれば、タイクーン王女としてあなたの処分は不問とします」
 その言葉を聴き、カルナック兵達は誰からともなく拍手を送っていた。
「ありがとうございます」
 ヴァーリングは立ち上がり、そして再び深々と頭を下げた。
 その姿を見てほっとしているクレアの姿にレナだけは気づいていた。クレアは城の中からそっとその様子を見守っていたのだ。
「それと、バッツ達は従者ではありません。共に旅をする仲間です」
「仲間?」
「だから、私とバッツ達は対等なんです。ヴァーリングもこれから火力船を調査する仲間です。お互いよろしく」
 レナはヴァーリングの前に手を差し出した。ヴァーリングはその手を握っていいものかどうか少々戸惑った。一般兵が一国の王女と握手を交わすなど行っていいものかどうか。しかし、ヴァーリングはそっとその手を握り返した。その手はとても温かかった。
 ヴァーリングが自分の持ち場へ戻ろうとした時、ぽんとヴァーリングは肩を叩かれた。
「まあ許してやるけど、もう少し人の話を聞いて、口の利き方に気をつけるんだな、ぼうや」
 そこには誰にも見えないように鋭い目つきでヴァーリングを睨み付けるファリスの姿があった。上下関係の厳しい海賊の長と若い兵士の先日の態度はあまりおもしろいものではなかった。
「は、はい。気を付けます」
 ヴァーリングは若干震える声で小さな返事をした。ファリスの肩に乗せた手はとても冷たいように思えた。

 カルナックで開発されたという例の車に乗り、昼過ぎには火力船に到着した。その船の大きさに四人はただ驚くことしか出来なかった。船の中に小さな村くらいなら入りきってしまうのではないかと思う程だった。
「これ、本当に乗り物なの?」
 見上げながらバッツはシドに尋ねた。
「そうじゃ。千人以上の人を快適な航海が出来るようにするのが目標だったからの」
 バッツは首が痛くなってきたので船を見上げるのを止めた。
「シド博士!」
「おぉ。中の様子はどうなったのじゃ?」
 シド博士に話しかけてきたのは一人の学者風の男だった。おそらくシドと一緒に火力船の開発をしている人間だということは見て取れた。長い話が終わると、シドはバッツ達とカルナック兵の兵隊長を呼んだ。
「どうやら増幅装置が異常なまでに強い作動を始めて暴走しておるようじゃ。おかげで船の中の様々なシステムが誤作動を起こすようになっておるんじゃ。中は危険じゃから十分気をつけて欲しい。わしは火力船の最深部にある制御室に行かねばならん。その近くにクリスタルもあるしの。そこまでの護衛はバッツ達に頼もうと思っとる。カルナック兵の方々には中に閉じ込められている作業員達の救出に当たってもらいたい。頼めますかな?」
 バッツ達は力強く頷いた。すると、シドは数枚の紙を配り始めた。
「船の中の見取り図じゃ。おそらく使えないシステムもあるからその通りに進むことはできんかもしれんがないよりましじゃろ」
 その図には船の中の見取り図が事細かに書いてあった。特に制御室や機関室へと進む船内はエレベータや移動床が入り組んで作られており、ただ図を見ただけではさっぱりわけが分からなかった。
「それじゃ行くとするかの。船の前後に甲板へ上る階段がある。制御室は後ろから行ったほうが良いじゃろ」
 シドの指示により、バッツ達とカルナック兵の一部が後方へ、残りは前方へと向かっていった。
 甲板から船の内部にはいくつもの入り口があった。それは甲板から上部の船室へ行くものであったり、下部の倉庫へ行くものであったり、ただキッチンへの入り口であったりもする。その可能な限り全てを調べ、モンスターを退治し作業員の安否を調べるのがカルナック兵の使命であった。バッツは城を出るときにカルナック兵が多すぎるのではないかと思っていたが、この船を見て、逆に少なすぎるのではないかと思っていた。その船の最後部に関係者以外立ち入り禁止の文字が貼ってある扉があった。
「ここからが一番制御室に近いはずじゃ」
 そういってシドは扉を開けた。扉を開けるとすぐに短いはしごが下りていた。それを下ると今度は下り階段。丈夫な金網状の床を歩く音が辺りにこだました。幸いなことにこの内部まではモンスターは進入していなかった。ただ、誤作動で防護用システムが作動し、その罠には細心の注意を払う必要があった。中には命を落としかねない罠もあったのだ。
「シド、行き止まりだけど?」
 前を歩いていたバッツは、先に道が無いことに気づいた。
「そこはじゃな、みんなこの床に乗るんじゃ。そしてこのレバーを……」
 シドがレバーを下ろすと、五人の乗った床が斜め上へと上り始めた。
「ここから先はこんなのばっかりじゃ。あちこちに重要な機関があるからの。作業する場所に行くだけで一苦労じゃ」
「でも、この船シドが作ったんでしょ?」
「まあ、わしだけじゃないがな」
 バッツはシドの凄さに改めて感動していた。

「さて、ここまでは順調にきたな。もっと苦労するかと思っておったが」
 シドは見取り図を見ながら、若干思う通りに進めなかったもののわずかに安堵の表情を浮かべた。
「順調って、あんまり進んでるように思えないけど」
 バッツは少し不満な声を上げた。確かに上に行ったり下に行ったり、進んだり戻ったりであまり制御室に近づいている感覚は無かった。
「これが正しい道なんじゃからしょうがあるまい。まあ、無理に飛び降りたり、フック付きロープで進めば話は違うがの。この老いぼれにそんな無茶をさせる気か?」
 バッツは大きく首を横に振った。
「さて、その先の床は一人用じゃ。一番左のレバーを下げれば上へ行くはずじゃ」
「ふぅん」
 バッツは言われたとおり小さな四角い床に乗り、一番左のレバーを下ろした。
「……あれ?」
 上へ行くはず、と言われたのにその床は下へ降りてしまった。
「おーい。どうなってるんだ?」
「ふむ、ここは誤作動が起きてるんじゃな。レバーを戻すんじゃ」
 バッツは言われたとおりレバーを戻した。しかし、なんの変化も無かった。
「ど、どうなってるんだ?」
「バッツ、ちょっとレバーをいろいろいじって見てくれ。それ以上その床は下には行かんはずじゃから」
 バッツは三つ並んだレバーをいろいろ動かしてみた。しかし、床は一向に動かなかった。
「おーい。壊れたのか? これ」
「……そのようじゃの。バッツ、そこから一人で向かってくれ。わしらは別の道を行く」
「そんなこと言ったって、おれ見取り図よく分からないよ」
「バッツ、右を向くんじゃ」
 バッツは言われた通り右を向いた。
「制御室はそっちの方向に、少し上の方じゃ。もしだめならどこでも良いからとにかく上を目指すんじゃ。どこかの出口にたどり着けるかもしれん」
「分かった。努力するよ」
 仕方なくバッツは目の前のはしごを上り、目の前の扉へと姿を消した。

「一応近づいてはいると思うんだけど」
 バッツは見取り図を見ながら制御室へ向かっていた。その時
「誰か、誰かいるか?」
 遠くからそう叫ぶ声が聞こえてきた。
「おーい。こっちにいるぞ」
 バッツはその声に反応した。正直一人で迷っていて心細かったからである。
「その声は!」
 バッツの声を聞いて駆けつけてきたのはヴァーリングだった。
「バッツ。こんな所でどうしたんだ?」
「いや、ちょっと仲間とはぐれてね。君は」
「私も似たようなものです。船内の倉庫を調べていたんだけど。不思議な床に乗ってレバーを動かしたら戻れなくなったんだ」
 二人とも同じ境遇であったことにバッツは笑うことが出来なかった。
「それは見取り図じゃないか? それがあれば迷うことも無いだろう」
「そのはずなんだけどね」
 二人は並んで見取り図を眺めた。しかし、二人でしても正しい道を導き出すことは出来そうになかった。
「とりあえず制御室に向かってシドと合流したいんだ」
「そうだね。それならあまり遠くなさそうだし」
 二人は不確かではあったが、地図を頼りに進むことにした。
 金網状の道ばかりだった景色はいつしかなくなり、細く狭い道が入り組んでいるようになっていた。
「ところでバッツ」
「ん?」
「バッツはレナ様をどう思います」
「どうって、大切な仲間だけど?」
「そうではなくて、その、男として……だ」
「へ?」
「素敵な方だとは思わないか?」
「な、何を急に」
 バッツは突然の話に困惑した。レナにたいしてそのような感情は多少はあるものの、これほど真っ直ぐ口に出したことは無かった。
「自分はレナ様を好きになってしまったかもしれない。しかし、自分はカルナックに命を捧げる身。ああ、レナ様を守りながら旅をするバッツが羨ましい」
「羨ましいだなんてそんな……」
「それならバッツはレナ様のことが嫌いなのか?」
「そんなわけ無いだろ!」
 真っ直ぐな性格だと思っていたが、まさかこんな話までしてくるやつだとバッツは思ってなかった。
「レナは素敵な人だよ。綺麗だし、誰にでも優しいし。そりゃ、好きになったっておかしくないよ」
「バッツは告白したのか?」
「だから、なんでそういう話になる! レナはまだ一緒に旅をして間もない大切な仲間だ。恋愛とかはまた別の話なの!」
 バッツは少し興奮して話を止めた。少しだけ胸の鼓動が早くなっていた。
「俺がこんな話をしてたの、他のやつらに言うなよ」
 バッツは息を落ち着けながらヴァーリングに釘を刺した。
 
「この辺が制御室だと思うんだけど」
 バッツはそう言って他の扉よりも大きな扉を開けた。その目の前には、強く光り輝く火のクリスタルがあった。
「ここは、クリスタルルームだな。ということは、制御室は」
「バッツ!」
 バッツの頭上からファリスの声が聞こえた。バッツの身長四人分ほどの高さのところの窓からファリスが手を振っていた。場所的にはクリスタルルームと制御室は同じところになるが、その二箇所は全く繋がってはいなかった。
「今、シドが増幅装置を止めてる最中だ。もうすぐ終わるって」
「分かった。でも、増幅装置止めたら移動する床とか動かなくなるんじゃないのか?」
「それは大丈夫だって。余熱で動くようなもんだって。帰る位はわけないってさ。それにほら」
 そう言うと、ファリスはバッツに一枚の地図を放り投げた。
「シドがもしかしたらバッツはそこにたどり着くかもしれないって、そこから帰るための地図も用意してくれたよ」
 シドはいろいろ先を見据えていた。これにはバッツはただ感謝するしかなかった。
 その時、突然クリスタルの後方からバッツへ向かって火柱が向かって飛んできた。
「なんだ!?」
 バッツは間一髪でその炎をかわし、剣を手に取った。目標を捕らえ損ねた炎は床にぶつかり散り散りになったが、その散った炎がクリスタルの前に集まり渦巻き始めた。
「なんだ、あれは!」
 渦巻いた炎はまるで生き物のように再びバッツ達に襲いかかってきた。
 バッツは今度は剣を振り、飛び来る炎を薙ぎ払った。ヴァーリングは槍を風車のように回し、その炎を散らした。
「くそ、いったいどうすればいいんだ?」
「バッツ! ああいった敵にはコアになる部分があるはずだ!」
 いつの間にかバッツの後ろにはファリスがいた。とうてい飛び降りることの出来ない高さであるが、海賊時代、マストから飛び降りることもあったというファリスだから出来ることであった。
「コア?」
「ああ、よく見るんだ。炎の中に異質な部分があるはずだ」
 炎はバッツの体より一回り大きい人型へと変化していた。その中にコアらしい部分は見当たらなかった。バッツが炎を眺めている一瞬の隙に、その人型はバッツに向かってタックルを仕掛けてきた。あまりに素早いタックルに適応出来ず、バッツは後ろの壁まで吹っ飛ばされた。
「ぐっ」
 背中を打った痛みと体を庇った腕の熱さの苦痛で顔が歪む。
「コアを見つければ良いんだな?」
 ヴァーリングがファリスに尋ねた。
「お前、分かるのか?」
「さあ? ただ、人の弱点なんて決まってる」
 ヴァーリングはくるくると槍を回し、両手で持って構えた。そして、人型の炎に向かっていったのだ。
「だぁ! 疾風三段突き!」
 そして、素早い突きを三回、人型の頭、胸、腹へと一瞬で繰り出したのだ。
 腹をついた瞬間、炎は大きく揺らめいた。ヴァーリングも腹を突いたとき確かな手応えを感じていた。
「そこか、ブリザラ!」
 ファリスは呪文を唱え、いつでも発動できる準備をしていた。炎の敵にとって、氷の呪文ブリザラは大きなダメージを与えることが出来る。
 炎は散り散りになり、再びクリスタルの前で渦巻き始める。その大きさはかなり小さくなっていた。さらに、コアの部分だけ妙に赤く光っていたのだ
「よし、もう少しだ」
 そう思って三人は体制を立て直した。次の瞬間、炎はクリスタルを覆うように渦巻き始めたのだ。
「まさか、クリスタルの力を吸収している?」
 小さくなっていた炎はみるみる元の大きさへと戻ろうとしていた。
「バッツ、こっちへ来るんじゃ」
 頭上の窓からガラフが叫んだ。バッツは急いでガラフに近づいた。
「ヘイスト!」
 ガラフはスピードアップの魔法をバッツに施した。
「サンキュー」
 体が軽くなったバッツは急いでクリスタルを取り巻く炎へと向かった。まだコアは目で確認することが出来た。
「だああぁーーー」
 バッツは飛び上がり、クリスタルの周りをぐるぐる回るコアへと向かって剣を振り下ろした。同時に、ヴァーリングがコアへ向かって槍を振り上げていた。二人の太刀筋がぶつかることは無かった。しかし、二人とも確実にコアを切り裂いていた。
 人の悲鳴にも似た奇妙な音が部屋に響いた。そして、二度と炎が渦巻くことはなかった。
「やった」
 部屋はこれまでの戦いが嘘のように静寂に包まれた。増幅装置も完全に止まったので機械の音もしなくなったからだ。
「おーい。これでひとまず安心じゃ。戻るとするかの」
 シドは下の三人に手を振った。
「あれ、あそこに誰かいるぞ?」
 ファリスはクリスタルの影に、制御室からも死角になるところに人が倒れているのに気づいた。
「あれは……王女!」
 ヴァーリングはクリスタルの方へと急いだ。そこには間違いなくカルナック王女が気を失っていたのだ。
「王女! しっかりして下さい」
 しかし、王女は目を覚まさなかった。
「いや、お見事」
 やる気の無い拍手をしながら、突如一人の男が現れた。その男は、クリスタルが砕ける時に必ず現れる黒髪の男だった。
「しかし、このままでは困るのでね」
 男は部屋の入り口とは逆の方の壁へと向かって歩き出した。壁を何やらいじると、壁が開き、中にはいくつものボタンが並んでいた。
「ばかな! なぜあれを知っておる」
 シドは驚きで声を上げた。他の者には何が起こっているか分からず、ただ牽制していた。
「あれは増幅装置の制御盤じゃ。制御室からではなくても簡単な操作ならクリスタルルームで行えるように作ったんじゃ。じゃが、あの存在を知ってるのはわしを入れても二、三人しかおらんはずじゃ」
 男は手際よくボタンを押していく。すると増幅装置が動き出したのである。
「あやつ……何をした? こちらからの操作ができん!」
 シドは制御室から増幅装置の停止を試みたが、全く止める事は出来なかった。
「それじゃ、ごきげんよう」
 そう言って男は消えてしまった。
 そしてゆっくりと増幅装置が動き始めた。部屋の四方からクリスタルに向かってダクトが伸びてくる。クリスタルの力を船に送り込むためのダクトだ。
 その時、突然爆音と共に壁が壊され、一人のウェアウルフが現れた。
「火のクリスタルはまだ無事か! 守らなくては」
 ウェアウルフはクリスタルに向かって伸びるダクトに体当たりをし、増幅装置の起動を阻止しようとした。バッツ達もダクトを壊そうと必死になった。しかし、その甲斐もなく、ダクトとクリスタルの祭壇は繋がり、奇妙な機械音が船全体に響き渡った。
「増幅装置の設定が最大になっておる……いや、許容範囲を超えておるぞ。このままでは船が爆発してしまう」
 制御室で様々なメーターを確認したシドは焦りを隠せなかった。
「逃げるんじゃ!」
 シドはバッツ達に叫んだ。そして、制御室のシドとレナ、ガラフも部屋を後にした。
「ここから逃げるのが一番早いだろう。行け」
 クリスタルルームではすでに爆発が始まっていた。バッツ達が入ってきた入り口もすでに爆発に巻き込まれていた。
「あなたは?」
「そんなことはどうでも良い。早く行くんだ!」
 ウェアウルフは自分の入って来た入り口にバッツ達を押し込んだ。そして、ウェアウルフは最後の望みをかけて制御盤のボタンをでたらめに押してみた。しかし、その甲斐もなく火のクリスタルは砕け散ってしまったのだ。
「ああ、ガラフ様。申し訳ありません。クリスタルを守ることは出来ませんでした」
 そして、ウェアウルフはそこから一歩も動くことは無かった。

 三人は走った。先頭をバッツが、真ん中をヴァーリングが、後方を王女を背負ったファリスが走っていた。道は一本道で迷うことは無かった。時折大きな爆発音が鳴り響き、船を大きく揺らした。
「急がないとやばいな」
 すでに爆発で足場が無くなっている所もあった。鉄で出来た壁は増幅装置の暴走のせいか熱を帯び始めていた。三人は息を切らしながら精一杯走った。
 移動する床が正常に動くかは心配だったがそれは大丈夫だった。床に乗っている間も肩で息をして呼吸を整えた。床を降りると初めて道が二つに分かれていた。片方は緩やかに下り、片方の先には上り階段が見えた。
「シドは上を目指せって行ってたからな。こっちだ」
 と、バッツが階段の見える道を選んだ時だった。
「バッツ、危ない!」
 大きな爆発音がしたかと思うと、バッツの頭上に大きな金網が落ちてきたのだ。それにいち早く気づいたヴァーリングはバッツに飛び掛り、バッツを突き飛ばした。
「は、ぐぅ……」
 バッツのいた場所に倒れこむことになったヴァーリングは、急所は外れたものの足にささくれた金網が突き刺さり、熱された金網に挟まれて体中に火傷を負った。と、同時にその後ろの足場も崩れ落ち、ファリスと離れ離れになってしまったのだ。
「おい、大丈夫か!?」
 バッツはヴァーリングに落ちてきた金網を投げ捨て、肩を揺すった。
「私は……大丈夫です」
 ヴァーリングは力のない笑顔を見せた。それが精一杯だった。
「とにかく急いで進むんだ。時間が無い」
 バッツ達の道は緩やかに下る方の道であった。寸断されたファリスはどうしようもなく、王女を背負って自分の進むことの出来る道を進んで行った。
 バッツは倒れたヴァーリングを背負って走り出した。ヴァーリングの足からは血が滲んでおり、息はどんどん荒くなっていった。緩やかに下る道。出口に近づいているとは到底思えなかった。ただバッツが走る足音と、激しい爆発音があちらこちらに鳴り響いた。時折、何かが崩れ落ちる音がする度に、バッツは進む道が無くなっているのではないかと不安になった。
 そして、新しく聞きなれない音が遠くから聞こえてきた。
「……水の音」
 船の壁に穴があき、徐々に浸水が始まってしまったのだ。
「やばい! 急がなきゃ」
 バッツは更に足を速め、薄暗い船内を走った。
「バッツ……」
「なんだ?」
 これまで何も言わなかったヴァーリングが小さな声でバッツを呼んだ。
「私を置いて行け。一人なら……助かるだろう」
「何を馬鹿なことを言っているんだ!」
 思いがけない言葉にバッツは怒鳴った。
「お前が助からなかったら、レナ様は……どれだけ悲しい顔をするか。そんな顔は……死んでも……させたくはない」
「馬鹿! もし俺がお前を置いてきたなんてなったら、レナは一生口きいてくれないぞ」
 か細い声であったが、意志のある声であった。ヴァーリングは大きく音を立てながら息をして続けた。
「私は……途中で助からなかったことにすれば……良いだ……け」
「ふざけるな! そんな嘘ついたら、俺の目覚めが悪くなる。もうしゃべるな。しっかり捕まってろ」
 しゃべりながら明らかに弱って行くのが分かった。その後、ヴァーリングが船内でしゃべることは無かった。
 爆発の音が徐々に増え、音も大きくなっていくのが分かった。船内の温度も上がり、バッツは汗だくで走り続けた。
「ここは?」
 バッツは見覚えのある道を目にした。それは、バッツが一人エレベーターでレナ達と別れた場所。その調度真上に辿り着いたのだ。バッツは勢いよく飛び降りた。ガシャンと足場の金網は音を立て、そのまま崩れ落ちてしまった。危うくバッツも一緒に崩れ落ちそうになったが、すぐに横の床に飛び乗った。小さな爆発によりあらゆる足場の基礎が奪われていた。船全体が崩れるのも時間の問題だった。
 バッツは最後の力を振り絞り走った。足場が崩れないことだけを祈り、見覚えのある道をひたすらに走った。
(確か、あの階段を上れば)
 バッツは長い階段を上り始めた。
「バッツ!」
 階段の先の扉からファリスの顔が見えた。出口は近い。しかし、急激に足場が不安定になり始めた。バッツは段を飛ばして階段を駆け上がった。はしごに手をかけたとき、階段は完全に形を失っていた。そして、その短いはしごも二人分の体重を支えることは出来なかった。ほんの数段上っただけではしごは壁から外れ始めたのだ。
「バーーーーっツ!」
 ファリスは身を乗り出して手を伸ばした。ファリスの体をガラフが、レナが、カルナック兵が支えていた。バッツははしごをつかんでいない方の手を必死に伸ばした。指先が触れた。必死で伸ばしたその手は震えていた。しかし、バッツとファリスの手が握られることは無かった。無情にも、触れた指先が徐々に離れていく。バッツの体が船内へと落ち始めたのだ。
(あぁ……だめか……)
 バッツの意識が遠のいた。その時、別の手がファリスの手をがっしりつかんだ。そして、逆の手でバッツの手をつかんだ。
「この手は……死んでも離しません」
 ヴァーリングが奇跡的につないだバッツとファリスの手。一瞬バッツもファリスも何が起きたのか分からなかった。それはヴァーリングの最後の意地だった。ヴァーリングは目を閉じていた。それどころか、バッツとファリスをつなぐ手以外に力は入っていなかった。ヴァーリングは気を失っていた。ただ、バッツを死なせたくない。レナを悲しませたくはないから。その想いがヴァーリングに奇跡を起こし、渾身の力を与えたのだ。
 船の上にいる人たちみんなでバッツ達を引き上げると、ファリス達は急いで船を下りてそこから離れた。船はまもなく大爆発を起こし、見るも無残な姿に成り果て、その大部分が海の藻屑へと消えていった。その姿を見守るバッツ達に不思議な光が舞い降りた。他のクリスタルと同様に、火のクリスタルの力がバッツ達に宿されたのだ。

                                                                                                   ・・・・・・以下本文へ続く

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